305bbcaa.jpgこのコラムは2011年10月26日に開いた「ドクターカフェ 下田先生を囲む会」で下田先生がお話しくださったことを、テーマごとにまとめています。わかりにくい部分はコソガイ編集担当が( )で補いました。第一回目のテーマは「喘息」です。

「ドクターカフェ 下田先生を囲む会」

西鎌倉こどもクリニック 下田 康介 院長
主催:NPOコソガイ(鎌倉子育てガイド)
2011年10月26日

1.「喘息」ってどんな病気?-自分から“気づく”ための努力を

20111026-1 司会  「喘息の診断」について。どう考えていけばいいでしょうか?

下田先生  喘息の診断には「ガイドライン」があり、そこに基準があります。
例えば、4回(日)以上、咳で目が覚めたりしたら喘息ということになる。
2008年に改訂された「ガイドライン」では、乳児(2歳)未満は更に厳しく、「3回(日)ゼイゼイしたら喘息」。もちろんこのゼイゼイの中には、RSウィルスなど他の要因もありえるが、幅広くとって、それらには「喘息のリスク」があるとしている。
アトピーが増えたことについて「衛生化説」というのがある。世の中が清潔になってくるとアレルギーが増えてくる、という説。東南アジア、アフリカやインドの田舎にいくと、アレルギーの子はほとんどいない。中国・韓国なども郊外にはいないが、北京や上海、ソウルなどの都会には多い。日本でも僕が子どもの頃、昭和30年代にはほとんど喘息はいなかった。
つまり、寄生虫や雑菌が一杯いるところで子育てをしている人達の赤ちゃんには、アレルギーは少ない。なぜなら、リンパ球が、細菌や寄生虫などに対して“戦うモード”を維持していないと生きていけないので。例えば、アメリカなら、農場で、鶏や豚がうようよいるようなところで生活している人にはアレルギーが少ないが、ニューヨーク、ロサンゼルスのマンションで生活する人には多い。
20111026-2 つまり、今のあなた達(母親)の世代が既にそういう(衛生化)世代なので、夜中の咳が多い子やゼイゼイを3回以上繰り返すと、喘息を疑って、シングレア等(コソガイ注:ロイコトリエン受容体拮抗薬。喘息治療に有効と言われています)の内服を始めるというのが基本になる。

司会  「寝ている間に咳で目を覚ます」というのでなくても、寝ようとすると咳が出てきて、寝られない子も同様に考えていいのでしょうか?

下田先生  それは、「Bedtime cough(ベッドタイム コフ)」というものです。
今、喘息を起こす遺伝子が3つ知られていて、さっき言った4回以上咳で目が覚める、3回以上ぜいぜいする場合、お父さん又はお母さんに喘息があれば「喘息」は決定的。本人にアトピーがあった場合も決定的。本人にアトピーがなくても、アレルギーの血液検査で、ダニ、犬猫など、何かにアレルギーが出た場合も、「喘息」は決定的。この3つ。だからすごく(子どもの喘息は)多いんです。そして、だいたいは5歳までに発病している。
ただ、お医者さんが(実際)診断するのはもっと少なく、「風邪だ」といってなかなか「喘息」との診断をしないけれど、西日本で喘息児を2000人以上を調べたところ、5歳までに100%発病していることが分かった。5歳以上では重症にはならない、重症度は変わらないと言われている。
重い子は1・2歳で入退院を繰り返したりするので、「喘息」であることが分かりやすいが、軽い子は「なんか変だなー」と、秋とか春に医者にいくだけでなんとか成長してしまう。
その常識を打ち破ったのが、新型インフルエンザ。2年前の新型インフルエンザは、そういう軽症の子ほど呼吸困難になるケースが多かった。
肺を作っている肺胞、酸素を取り入れて炭酸ガスを出す大事なところに、急にダメージがきて、死亡したり呼吸困難になったり。そういうのは、むしろ軽症の方に多かった。

司会  喘息が重い児より軽い児のほうが新型インフルエンザにかかった後に、重症化しやすかったというのは意外です。それは、喘息が重い児は、普段からちゃんと喘息のコントロールがされていたから、呼吸機能に適切な対応が取られていたから、ということですか?

下田先生  そうです。

司会  下田先生のお話を伺っていると、「うちの子は何回ゼイゼイしたかな?」と数えたくなった方もあると思います。ただ、「ガイドライン」があるといっても、実際のお医者様の中には、「喘息」という言葉の与えるイメージの悪さから明言されるのを避けられ、「ちょっと気管支が弱いね」という言葉で気管支拡張剤は飲み続けているケースもあると思うのですが、親としてどう考えていけばいいのでしょうか?

下田先生  日本は医療費の負担がないから、お薬手帳を貰って薬をもらっていても、あまり薬の内容をじっくり見ないでしょ?
毎年春や秋に気管支拡張剤、抗アレルギー剤が出ていたら、「風邪」と言われていても、「喘息」と疑ってみる。我々(医師)は、保険会社等に請求書等を出す場合、シングレア等を処方するには「喘息」という病名しか通りませんから。よく処方された薬の内容を見れば、子どもの状態には気づくことができます。
実際、入院するほどでもなくて、風邪で来ているならともかく治っちゃうけど、6歳でゼイゼイしている子は、22歳になっても5〜7割ゼイゼイしているわけですから、(ちゃんと早めに対応しないと)人生変わっちゃう。会社の大事な時に喘息起こしたり、デートや試験の時にゼイゼイして救急病院に行かなきゃいけなくなったり。その子が社会人になった時にどうなっているか、ほとんどの小児科医はそこまで考えて処方していない。だから、お母さんのほうでお薬手帳をよく見て、「あれ?なんでこれ気管支の薬が出てるのかしら?気管支炎とか喘息の話はなかったのになあ?」と思ったら、勇気を出して(担当医に)聞いてみてください。

司会  気管支拡張剤とは、具体的には、メプチン、エプカロールなどですか?

下田先生  そうです。それ(喘息とはっきり診断せずに風邪扱いにすること)により、入院したり悪化して死亡したりという恐れはないだろうけど、将来的にずっと喘息が続いてその子の人生が変わってしまうかもしれないね、と。だから、お母さんが意識してみてゆく、と。
僕は2年間、シングレア等を使ってみて、「時間外受診をしない」、「幼稚園・学校の欠席がない」、「運動誘発喘息を起こさず自分の好きな運動ができる」、この3つがきちっとできれば、ある程度将来は明るい、と考えている。どうしても真夏や真冬に症状がなくなって良くなっちゃうと、お薬を飲ませたくないと止めてしまう。

司会  喘息以外の咳について教えてください。例えば湿った咳、夜中に鼻水が落ちてきたような湿った咳についてはどうですか?

下田先生  一つには、「喘息が発病する前に鼻炎が発病する」と言われている。鼻の症状は必ずありますね。
それから、僕らが見ていて、喘息を疑ったり、喘息が治ってないなと思うのは、温度差、屋外に出た途端にコホコホと出る咳です。あれが出る子は喘息があるよ、と。「お薬は出ているけれど、元気そうだし、咳もでないからそろそろいいか」と思っているお母さんは、是非「5度以上の温度差」になった時に咳がでるかどうかを確認してほしい。今なんて、日中の温度差は10度以上違うので、どうしても咳が出やすいですよね。
あと、鼻がまわって咳が出るからと、耳鼻科に行く人が多い。僕が小児科医になった頃は、あまり耳鼻科には(親は)行かなかったが、今は風邪の症状で耳鼻科に行く人が多い。耳鼻科の先生は結構シングレア等を出す先生が多い。ただ、耳鼻科の先生は、あまり「ガイドライン」のことをご存じないので(喘息の)治療も中途半端だし、私から言えば、まず小児科を受診して、耳の処置とか特殊な治療が必要であれば耳鼻科に行く、というのがいいと思う。

このコラムは2011年10月26日 西鎌倉こどもクリニックで開催された「下田先生を囲む会」で、喘息をテーマにお話しくださった部分を掲載しました。先生はこの会で「抗生物質との付き合い方」「上手な受診とは」「“お熱”との付き合い方は?」などについても語ってくださいました。今後、テーマごとに順次掲載して行きます。先生のわかりやすい説明と深い愛情が感じられるコラムをお楽しみに!(コソガイ)


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